2015国際交流WS(日本) 郊外住宅団地

多摩平団地の概要

  • 1955年の戦後の経済成長期に、住宅不足を解消する目的で日本住宅公団が設立された。その後、人口が大都市に集中し、さらなる住宅不足解消のため、立地は郊外に、大規模な団地が大量供給された。初期の住戸は、規模は狭小で、バリアフリーではないなど、設備も低水準の住戸であり、1980年以降、住戸規模や居住水準は改善が図られ、近年では既存ストックの再生・活用が行われるようになった。UR都市機構は2015年3月時点で、約75万戸のストックを管理している。
  • UR都市機構では、1955~1964年代の住宅を対象に、敷地の有効・高度利用・居住水準の向上を図り、良質な賃貸住宅を供給するため、団地の建替事業を実施している。また、1965~1979年の住宅については、少子高齢化及び人口・世帯減少社会といった社会状況を背景に、UR 賃貸住宅のストックの状況や社会構造の変化を考慮し、新しいものを開発するのではなく既存のストックを活用するという方針の下「UR 賃貸住宅ストック再生・再編方針」を策定した。
  • 多摩平団地(建替え後は「多摩平の森」)は東京都日野市にあるUR 団地である。昭和30 年代初頭(1955年頃)の都市部への人口集中を緩和するために、都市機能を周辺の都市圏に分散させ、地方において新産業都市を育成し住宅需要の分散化を図ることで、住宅の大量供給を実現する「衛星都市」の整備が始まった.
  • 当時の多摩平団地は、周囲の農村風景と異なり、碁盤目状の区画が整備され緑が多く配置された快適な住環境であった。比較的所得の高い中堅サラリーマン世帯が住むことのできた先進的な住宅であったため、公団住宅に住むことは憧れであった。総戸数約2,800戸の大規模団地で、都心から30kmの郊外部に多くの居住者が生まれた。

視察場所

 ・UR賃貸住宅「多摩平の森」

 

多摩平団地

 

  • 東京駅から直線距離で35kmに位置し、1958年にUR都市機構により管理された29haの団地である。建替え以前は、1~4階の低中層住棟であり、37m2に居室が2つ、ダイニングとキッチンという狭小な間取りであった。設備も徐々に老朽化し、同時にバリアフリーでないこともあり、建替えの必要性が生じた。
  • 1997年から建替えに着手し、2008年に賃貸住宅の建設が完了している。賃貸住宅は、高層棟へ建替え、団地の敷地は以前より小さくなっている。建替え後の住戸は、フローリングリビングやシステムキッチンといった現在の生活スタイルにあった住戸となっており、バリアフリー化もされている。
  • 以前緑地だった箇所は、既存樹木を活かして「多摩平の森」として再整備されている。建替えにあたっては、日野市・居住者・UR都市機構で三者勉強会を実施し、話合いやワークショップを重ね、住戸の間取りから住棟の配置、屋外環境に至るまで、すべてこの三者勉強会で話し合われた。

多摩平の森

  • 多摩平の森では、建替に伴って、居住者が退去した住棟を、UR都市機構から民間事業者に、スケルトンで賃貸し、民間事業者が改修工事及び、その後の管理運営を行う住棟ルネッサンス計画行われている。
  • 対象住棟は全5棟・144戸であり、南側2棟は、シェアハウスの「りえんと多摩平」、真ん中1棟は、菜園付き住宅「AURA243多摩平の森」、一番北2棟は、高齢者向け住宅「ゆいま~る多摩平の森」が民間事業者によって整備された。りえんと多摩平とAURA243多摩平の森の事業期間は15年、ゆいま~る多摩平の森の事業期間は20年となっている。

りえんと多摩平(団地型シェアハウス)

  • りえんと多摩平は既存住棟の躯体を活用し、屋根防水、外壁の補修等をした上で、3Kの居室を3個室に改修している。3室(9.10~11.68m2)で1ユニットとなっており、男女別にユニットが並んでいる。家具付きの個室では、プライバシーをしっかり確保しながら家電やキッチンが揃えられた共用部を中心に、快適なシェア生活をすることができる。なお、各ユニット以外にも共用のキッチン、ラウンジ、シャワーブース、ランドリーコーナーなどもあり、多世代が交流しながら生活出来る環境が整っている。

 

AURA243 多摩平の森

  • 「AURA243 多摩平の森」は多摩平団地のゆとりある団地環境を活かし、貸し菜園と専用庭群を併設した住宅となっている。土いじりを通して世代を超えた人々とのつながりを感じられる住環境というのがコンセプトである。
  • 歴史ある多摩平の自然環境、都心では味わえない広い青空、ゆとりある団地の特性を活かし、貸し菜園「ひだまりファーム」(全45区画)、小屋付きの貸し庭「コロニーガーデン」(全9 区画)、住人や地域のイベントを開催できる「AURAハウス」等を併設した賃貸住宅となっている。
  •  1階は約50 m2の前庭に玄関のある「ヤードハウス」(全6 戸)となっており、専用庭が付いている。2階から4階は約15畳のリビングダイニングを中心とした1LDKの「ひなたぼっこハウス」(全18 戸)として整備されており、住棟に併設された菜園や庭をレンタルし、アウトドアな趣味や子育てを自然の中で楽しむ暮らしを提案している。

ゆいま~る多摩平の森

  • ゆいま~る多摩平の森は、自分らしい生活スタイルを守りながら、いざとなったら心身状態に応じたサポートを安心して受けられる24時間365日スタッフ常駐の高齢者向けの住まいを提案している。
  • この施設も既存住棟を活用しているが、かつて利用されていた階段室を撤去し、新たにエレベーター、階段室、外廊下を設置している。主な用途は高齢者専用賃貸住宅(32戸)とコミュニティハウス(31戸)、小規模多機能型居宅介護施設、食堂兼多目的室となっている。
  • 既存住棟の改修に加え、小規模多機能型居宅介護施設部分と食堂兼多目的室の部分は増築を行っている。また、食堂は入居者だけでなく誰でも利出来、地域の交流の場としての活用も期待される。
  • 介護サービスに関しても地域の拠点となるよう地域に開かれた施設整備が行われている。今回の整備ではこれまで高額な家賃がネックとされていた高齢者向け住宅建設において、既存住棟を活用することによってその建設費を約7割に抑えている点が特徴である。